ラノが日本語を始めたのは、高校一年の春だった。
最初の一か月、ひらがなを覚えるだけで大変だった。カタカナを覚えたころには、ひらがなを半分忘れていた。
漢字が出てきた日、ラノは本気でやめたいと思った。
それでも、毎日十分だけ読んだ。うまくいかない日も、十分だけ。
一年目、辞書を一ページに二十回開いた。二年目、十回になった。
三年目のある土曜日、ラノは図書館で日本の小説を借りた。薄い本だった。家に帰って、椅子に座って、読み始めた。
気がつくと、外は暗かった。三十ページ読んでいた。
そして、机の上を見た。辞書は閉じていた。一度も開かなかった。
ラノは長い間、その辞書を見ていた。うれしいというより、不思議だった。言葉が、いつのまにか見えなくなっていた。
言葉が見えなくなったとき、はじめて物語が見える。
次の日、ラノはまた図書館へ行った。今度は、少し厚い本を選んだ。