駅の北口を出て右へ曲がると、小さな本屋がある。店の中は三人で一杯になるほどだ。小さいながらも、この店は五十年続いている。
日本中で、まちの本屋は減りつつある。駅の前にあった大きな店も、去年閉まった。それでも、この店の暖簾は毎朝出ている。
店の主人は七十歳の山田さんだ。山田さんは父親からこの店を受け継いだ。若いころは別の仕事をしたいと思いつつも、結局ここに残った。
棚は狭いながらも、よく選ばれている。新しい本だけではない。三十年前の本も並んでいる。
やまだ: 売れないと分かっていながらも、置いておく本があります。だれか一人のために待っている本です。
去年の冬、一人の女子学生が店に入ってきた。祖母が昔読んでいた本を探していた。題名も作者も分からなかった。山田さんは一時間ほど話を聞き、棚の奥から一冊出してきた。それが探していた本だった。
その日から、女子学生は月に一度この店へ来るようになった。大きな店のほうが安いと知りつつも、ここで買う。本を選ぶ時間が好きだからだ。
家賃は上がりつつある。客は少ないながらも、毎日同じ顔が何人か来る。
山田さんは、いつまで続けられるか分からないと言う。それでも毎朝、六時に店を開ける。