パリは料理が苦手だった。台所に立つと、いつも何かを焦がした。
ある週、母が一週間家にいなかった。
おかあさん: パリ、おねがいね。かんたんな物でいいですよ。
最初の日はひどかった。ごはんは固く、スープは塩からかった。おいしいどころではなかった。弟のイノムは一口食べて、水を飲んだ。
次の日、パリはノートを開いた。母の作り方を一行ずつ書き写した。時間をはかり、味をみた。
三日目のスープは、悪くなかった。四日目には、イノムがおかわりをした。
金曜日、パリは初めて友だちを家に呼んだ。ムニラは一皿食べて、手を止めた。「これ、お店の味ですね」と言った。パリは笑って、何も言わなかった。
週の終わり、母が帰ってきた。台所はきれいで、鍋も片づいていた。
おかあさん: 苦手どころか、いちばん上手じゃないですか。
パリ: 苦手だと思っていただけです。一度もやったことがなかっただけです。
その日から、パリは料理ばかりか、かたづけもするようになった。弟も手伝うようになった。
パリは気がついた。料理は難しいどころか、数学よりずっとやさしい。答えが毎日目の前に出てくるからだ。
「苦手」というのは、できないという意味ではない。まだ一度もやっていない、という意味のこともある。