イノムは何でもすぐに始める。そして三日でやめる。
ギターは三日。絵は三日。走ることも三日だった。
「三日坊主だな」と兄が笑った。イノムは怒った。でも、言い返せなかった。
ある日、祖母の家へ行った。祖母は庭で小さな木に水をやっていた。
「おばあちゃん、この木、いつ大きくなるの」
「十年かかりますよ」と祖母は言った。「石の上にも三年、という言葉があります。冷たい石でも、三年座れば温かくなるでしょう」
イノムは黙っていた。三年は長い。
祖母は水をやりながら言った。「わたしもこの木を八年育てています。去年、初めて花が咲きました」
「毎日全部やらなくてもいいですよ」と祖母は続けた。「塵も積もれば山となる。一日十分でいいんですから」
その日から、イノムは毎日十分だけギターを触った。上手にならない日もあった。やめたくなる日もあった。
一年たった。イノムは祖母の前で一曲弾いた。短い曲だった。でも、最後まで弾けた。
祖母は何も言わずに、庭の木を指さした。木は、少しだけ高くなっていた。